水辺空間グループ調査報告

平楽古鎮の中心を流れる白沫江は、長い歴史の中で住民にとって重要な役割を果たしてきました。平楽古鎮の保存・観光活用について考える際、白沫江を中心とした水辺空間は重要な要素の一つに挙げられるでしょう。水辺空間グループは白沫江と周囲の水辺空間へ着目し、現地調査を通した現状の確認・分析と、さらに魅力的な空間の創造のための提案を行いました。


1. 白沫江の概要

 白沫江は主に灌漑と農業、交通運輸、生活用水、そして余暇活動の場という四つの大きな役割を有しています。白沫江は「一江三分(一つの川が三つの流れ)」に分けられ、下流のダム区の農地を灌漑し、様々な農作物の栽培に用いられています。交通運輸の手段としては、輸送手段が発達する以前は茶馬古道(別名西南シルクロード、四川省、雲南省とチベットを結んだ)の一部として絹、茶葉、塩、鉄器などを運びました。また、現在も洗濯や野菜洗いなどの生活の場、釣りや散歩などの余暇活動の場としても使われています。


 白沫江とそこから引かれる小川の両岸には住宅等建造物が並んでいますが、右岸は水面と路面が比較的近いのに対し、左岸はさらに路面が高くなっており、水面と住宅間の距離が離れています。また、住宅部分から水面をつなぐ階段が設けられている箇所も存在します。

 白沫江から引かれる水路の周囲には、かつて利用されていた水利施設の遺跡が残っており、水利用の伝統を反映しています。また、水路の上に設けられた東屋は住民と観光客にとってたまり場として機能し、交流の場ともなっています。

 水辺空間の調査を通して挙がった問題点の一つが、白沫江の左岸と右岸の間に空間的なつながりの少なさです。左岸は細い歩道や椅子が並べられた休憩空間が設けられ、主に「静」の空間が広がっていますが、右岸は川遊びもできるような「動」の空間が広がっています。この空間同士の結びつきを強めることが水辺空間の活性化にもつながるのではないかという仮説のもとに、具体的な活性化の計画を検討します。


2. 水辺空間の活性化

 両岸の空間のつながりを創造するために、川を上流から下流へかけて3つの空間に分け、複数のポイントを設置してそれをつなぐ2つの観光ルートを設定するという計画を考案しました。上図の青色のエリアが景観空間地区、中間の黄色が休憩空間地区、赤色が水遊び空間地区であり、訪れる人の目的や興味に合わせて選ぶことができるようになっています。

 具体的な動線整備の提案として、景観地区における動線は景観を楽しむ、観賞するという目的を重要視した歩道を水上に設置します。一方で、水遊び空間地区は水とのふれあいや楽しさを重視したデザインの動線を整備します。

 

 各地区の具体的な提案に入ります。調査時、夜間にプロジェクションマッピングが実施されていましたが、色が派手すぎることや片岸のみがライトアップされているという問題点を見出すことができました。

 そこで、景観空間地区では川や古鎮の歴史がわかるような物語性や無形文化を用いたパフォーマンスを行い、両岸のライトアップと観賞のためのベンチや広場の整備、プロジェクションマッピング開始時間の明確化などを提案します。具体的な事例として、中国の杭州大運河では光の演出とプロジェクションマッピングを用いて現地の物語や無形文化を語るパフォーマンスを行っています。

水面~路面の動線の創造

キャンプ場としての利活用


 休憩空間地区は現状、狭い通路に椅子が置かれ観光客の通行の妨げになり、細い歩道や飛び石のみの部分とあわせて動線の整備が不十分な状況です。そこで、広いデッキを整備することでゆとりのある空間を生み出し、観光客と地元住民の交流の場にすることを狙います。

 現状の水辺空間ではすでに水遊びのできる空間は十分に存在しますが、両岸のつながりが欠けているため、飛び石や通路を作ることを提案します。

 また、水辺空間全体における観光客へのアプローチとして、川の物語を伝えるパブリックギャラリーや両岸への案内板の設置などのアイデアが出ました。


3. 空き家の再利用

 建築グループが作成した図面を見ると、白沫江左岸のエリアに空き家が多く並んでいることが分かります。水辺空間の活性化のためには、これらの空き家を再利用することが重要となります。民宿としての利用や事業者向けへの販売といったアイデアが挙がりました。前者は、常陸太田市(茨城県)で行われている会員制農家民宿制度が具体的な事例として挙げられます。

 また、休憩空間地区の提案でもふれたように、現在は水辺空間の動線上に椅子やテーブルが設置され通行が妨げられている状態です。これらの空き家を再利用することで、具体的にはオープンカフェへのリノベーションなどで動線を確保しつつ活性化を狙うことを提案しました。